未完成の言葉の欠片 / ※印は要注意orネタバレ / 二次はクリア後前提です
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2026.04.04 Saturday
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04/03/19
2004.03.19 Friday
冬の朝。広い窓の向こうから聞こえてくる、微かな鳥の羽搏き。その音に、少女は穏やかな微睡みの中から意識を呼び戻される。覚醒を促され、ようやく目を覚まして枕から首をもたげると、時計の針は既に七時過ぎを指していた。いつもならばもっと早くに起こしに来るはずの侍女が、今日はまだいない。部屋の中はしん、としていてやけに羽の音と風の音が大きく聞こえた。
明るい朝の光は透明な硝子を通して優しく降り注ぎ、部屋の中の厳しい冷気を打ち消すように暖かく満ちている。陽光が眩しくて思わず目を細める。
少女は上体を起こして、もう一度視線を窓の方へと向けた。
真白い羽。舞い降りたそれは、こつこつ、と嘴(くちばし)で何度も窓硝子を叩く。白く大きな鳥だった。少女が気付いたのが判ったのか、鳥は軽く首を傾げて丸い睛で硝子越しに彼女を見る。しかしそれも束の間、白い鳥は優美に翼を広げて飛び去った。
その際、何かをバルコニーに落としていったことに少女は気付く。寝台から足を下ろし、慌てて彼女は窓を押し開ける。
そこに置かれていたのは一通の手紙。裸足のままバルコニーに出た少女は、そっとそれを拾い上げる。封はされていない。宛名も差出人も書かれていない封筒を、彼女は急いで開いた。
中には一枚の便箋と、古びた鍵が入っていた。
『僕が留守の間、君に預けます。好きに使うといい』
見覚えのある、癖のある字で便箋にはそう綴られている。封筒の口を傾けると、かさり、と音を立てて鈍い金色の鍵が掌の上に滑り出た。少し錆付いた、古い古いもの。あの塔の鍵だ、と一目で判った。気付いてすぐに彼女は踵(きびす)を返す。
明るい朝の光は透明な硝子を通して優しく降り注ぎ、部屋の中の厳しい冷気を打ち消すように暖かく満ちている。陽光が眩しくて思わず目を細める。
少女は上体を起こして、もう一度視線を窓の方へと向けた。
真白い羽。舞い降りたそれは、こつこつ、と嘴(くちばし)で何度も窓硝子を叩く。白く大きな鳥だった。少女が気付いたのが判ったのか、鳥は軽く首を傾げて丸い睛で硝子越しに彼女を見る。しかしそれも束の間、白い鳥は優美に翼を広げて飛び去った。
その際、何かをバルコニーに落としていったことに少女は気付く。寝台から足を下ろし、慌てて彼女は窓を押し開ける。
そこに置かれていたのは一通の手紙。裸足のままバルコニーに出た少女は、そっとそれを拾い上げる。封はされていない。宛名も差出人も書かれていない封筒を、彼女は急いで開いた。
中には一枚の便箋と、古びた鍵が入っていた。
『僕が留守の間、君に預けます。好きに使うといい』
見覚えのある、癖のある字で便箋にはそう綴られている。封筒の口を傾けると、かさり、と音を立てて鈍い金色の鍵が掌の上に滑り出た。少し錆付いた、古い古いもの。あの塔の鍵だ、と一目で判った。気付いてすぐに彼女は踵(きびす)を返す。
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04/03/18
2004.03.18 Thursday
「おじさま、ここ、どうしたの?」
不意に下方から声がした。着替えの中途で思わず手を止め、ぎょっとして彼はその主を見下ろす。視線の先にいたのはまだ幼い少女。彼はあからさまに眉を顰めると、外しかけていたシャツの釦(ボタン)を几帳面に全て留め直した。
そうして少女の頭を上からぽんぽん、と少し強めに叩く。
「レージィ、人が着替えているのを覗くものじゃない」
「のぞいてなんかいないわ。見てるの」
「同じこと」
「……おじさまのいじわる」
叱られたことよりもむしろ、崩れた髪形を気にするようにテレジアは両手を頭の上にやる。折角彼に見せようと綺麗に結い上げてもらったのに、それを台無しにされ、むっとした様子で少女は唇を尖らせる。
不意に下方から声がした。着替えの中途で思わず手を止め、ぎょっとして彼はその主を見下ろす。視線の先にいたのはまだ幼い少女。彼はあからさまに眉を顰めると、外しかけていたシャツの釦(ボタン)を几帳面に全て留め直した。
そうして少女の頭を上からぽんぽん、と少し強めに叩く。
「レージィ、人が着替えているのを覗くものじゃない」
「のぞいてなんかいないわ。見てるの」
「同じこと」
「……おじさまのいじわる」
叱られたことよりもむしろ、崩れた髪形を気にするようにテレジアは両手を頭の上にやる。折角彼に見せようと綺麗に結い上げてもらったのに、それを台無しにされ、むっとした様子で少女は唇を尖らせる。
04/03/17
2004.03.17 Wednesday
「だめだって、テレジア。西の塔には悪い魔女がいるって」
そう言って、一人の少年が芝生の上を駆けていく少女に追い縋った。
石造りの、高い灰色の塔。帝城の敷地内、一番西の隅にあって、外壁を覆うように濃い蔦がびっしりと絡み付いている。二人の行く先に聳えるこの塔は、古くから棲みついた魔女が夜な夜な怪しげな実験をしているとか、迷い込んだ子供が帰ってこなかったとか、色々と噂が流れていた。そういう曰くつきなのである。
少女は少年―― 一つ年下の弟であるルドルフを振り返って、唇を尖らせる。
「何よ、ルディ。そんなこと信じているの?」
「だって……」
気弱そうに反論するルドルフに、
「もし魔女がいたってこんなお昼間には悪さはしないわ」
ぴしゃりと強気に言ってテレジアは歩調を速めた。
細やかなレースを重ねた白い夏服のスカート、その端を軽くつまんで少女は軽やかに駆ける。艶やかに波打つプラチナブロンドの長い髪とあしらわれたリボンが、初夏の風に柔らかくそよいだ。ブラウスの半袖からすらりと伸びた腕の、白い膚(はだ)が焼けるのにも構わない。
彼女はルドルフが引き止めようとするのも聞かずに、青々とした芝生を踏みしめていった。仕方なくルドルフはその後ろを追いかける。
木々の向こうに、古びた塔が段々とその姿を現してきた。
遠目に見ているよりもずっと古い。多分、城が築かれた頃から――もしかするともっと昔からここに存在するのだろう。山から切り出した大きな石を高く積み上げ、何年もかけて造られた塔。外から様子を窺うに窓は遥か上にあるだけだ。その中は一体どうなっているのか、と少女の好奇心を刺激する。本当に魔女が住んでいるなら、寧ろ会ってみたいというものだ。
塔の周囲をぐるりと回ってみると、錆びた扉がひとつあるだけ。コツコツ、とテレジアはそれを叩いてみる。そうしていると、やっと追いついたルドルフが不安そうに後ろから声をかけた。
「本当に入るの?」
「本当よ」
「ほんとーーーに?」
「しつっこいわね」
邪険そうに弟に言ったテレジアが、扉に取り付けられた輪っかを手前に引っ張ると、ほんの微かに動く様子を見せた。鍵はかかっていないようだ。テレジアは思い切って力を籠めて取っ手を引く。すると錆び付いたドアがギィィ、と軋む厭な音を立てた。そのまま精一杯の力で扉を開ける。少女の細腕にはその重さは応えたが、何とか子供一人分くらいは入れる隙間ができた。
意を決して、彼女は体半分をその中に滑り込ませる。塔の内部は埃っぽい匂いがした。明かりは見えず、薄暗い。そして奇妙にひんやりしていた。見上げてみると、どうやら階段がずっと上の方まで続いているようだ。一度入り口まで下りてきたテレジアは、ルディ、と呼びかけて手招きする。
恐る恐る、といった様子でルドルフが塔の中に足を踏み入れる。それを確認して彼女再び階段を上がっていった。
そう言って、一人の少年が芝生の上を駆けていく少女に追い縋った。
石造りの、高い灰色の塔。帝城の敷地内、一番西の隅にあって、外壁を覆うように濃い蔦がびっしりと絡み付いている。二人の行く先に聳えるこの塔は、古くから棲みついた魔女が夜な夜な怪しげな実験をしているとか、迷い込んだ子供が帰ってこなかったとか、色々と噂が流れていた。そういう曰くつきなのである。
少女は少年―― 一つ年下の弟であるルドルフを振り返って、唇を尖らせる。
「何よ、ルディ。そんなこと信じているの?」
「だって……」
気弱そうに反論するルドルフに、
「もし魔女がいたってこんなお昼間には悪さはしないわ」
ぴしゃりと強気に言ってテレジアは歩調を速めた。
細やかなレースを重ねた白い夏服のスカート、その端を軽くつまんで少女は軽やかに駆ける。艶やかに波打つプラチナブロンドの長い髪とあしらわれたリボンが、初夏の風に柔らかくそよいだ。ブラウスの半袖からすらりと伸びた腕の、白い膚(はだ)が焼けるのにも構わない。
彼女はルドルフが引き止めようとするのも聞かずに、青々とした芝生を踏みしめていった。仕方なくルドルフはその後ろを追いかける。
木々の向こうに、古びた塔が段々とその姿を現してきた。
遠目に見ているよりもずっと古い。多分、城が築かれた頃から――もしかするともっと昔からここに存在するのだろう。山から切り出した大きな石を高く積み上げ、何年もかけて造られた塔。外から様子を窺うに窓は遥か上にあるだけだ。その中は一体どうなっているのか、と少女の好奇心を刺激する。本当に魔女が住んでいるなら、寧ろ会ってみたいというものだ。
塔の周囲をぐるりと回ってみると、錆びた扉がひとつあるだけ。コツコツ、とテレジアはそれを叩いてみる。そうしていると、やっと追いついたルドルフが不安そうに後ろから声をかけた。
「本当に入るの?」
「本当よ」
「ほんとーーーに?」
「しつっこいわね」
邪険そうに弟に言ったテレジアが、扉に取り付けられた輪っかを手前に引っ張ると、ほんの微かに動く様子を見せた。鍵はかかっていないようだ。テレジアは思い切って力を籠めて取っ手を引く。すると錆び付いたドアがギィィ、と軋む厭な音を立てた。そのまま精一杯の力で扉を開ける。少女の細腕にはその重さは応えたが、何とか子供一人分くらいは入れる隙間ができた。
意を決して、彼女は体半分をその中に滑り込ませる。塔の内部は埃っぽい匂いがした。明かりは見えず、薄暗い。そして奇妙にひんやりしていた。見上げてみると、どうやら階段がずっと上の方まで続いているようだ。一度入り口まで下りてきたテレジアは、ルディ、と呼びかけて手招きする。
恐る恐る、といった様子でルドルフが塔の中に足を踏み入れる。それを確認して彼女再び階段を上がっていった。