未完成の言葉の欠片 / ※印は要注意orネタバレ / 二次はクリア後前提です
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2026.04.04 Saturday
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ローデシア編の片鱗とか
2004.10.17 Sunday
「ドクター・ガーラント、これはいいところに」
先週から同僚となった男の呼びかけに、回廊を通りすがる少年はふと足を止めた。
ローデシア王都に位置するエルクランド王立学院(ロイヤル・スクール)、学舎の北東には広大な敷地が広がっており、剣技や魔道の演習場となっている。学院では、次代を担う者として学問だけでなく武芸の修養も必須とされているから、必定、生徒たちは週に数回厭でもそこに通うことになる。
しかし少年は生徒の身ではない。彼は教える側の身分であり、遠く隣国からはるばる王都へ招かれた、歴とした客員講師であった。現に午後一番の概説の講義を終えたばかりで、つい先程彼の出したレポート課題に今頃生徒たちは四苦八苦していることだろう。
眼鏡の奥の赤茶けた瞳をつい、と声の主に向け、彼は微かに首を傾げる。相手の顔は勿論見知っているが、今まで挨拶以上の言葉を交わしたことはない。一体何の用だろうか。
「リンドグレーン先生、どうしたんだろうね」
「ドクターが人気だから目の敵にしてるんじゃないの、リンディ。僕はそう思うね」
教科書を小脇に抱えたまま演習場の方を覗き込むのはユーリだ。彼に対して、隣を歩いていた同じく制服姿のジルティニアが小声で囁く。『リンディ』というのは彼らを呼び止めた教官・リンドグレーンの愛称だった。しかし決して好意から出ているものではなく、生徒たちを頭ごなしに押さえつけ気味な彼を小馬鹿にするニュアンスが拭えない。
「あなたは相当な魔道の使い手だと聞く。どうだろう、ひとたびお相手して頂けないだろうか」
リンドグレーンは言った。
言葉の上では誘いかけであるが、何処か険を含んだ声音だと少年には聞こえた。この男は、どう見ても学院(アカデミア)で学ぶ生徒たちと同年代の、子供の姿形(なり)をした異国の『博士(ドクター)』をいたく敵視しているらしい。
彼は実践魔道担当の教官だ。どうやら授業の途中らしく、その周囲には、身のこなしが楽な演習着を着用した大勢の生徒たちがいる。休憩の鐘は既に鳴ったというのに熱心なものだ。教官が中断を指示しない限り受講生も解放されないのだから、全く大変だと生徒の身になって彼は思った。
「私の法力(ちから)は見世物ではありませんから」
観客(ギャラリー)に見せびらかすほど酔狂ではない、とすげなく断ろうとした少年をリンドグレーンは引き止める。
「だが、皆も異国の魔道に興味がある。なあ?」
そう言って、男は周りに群がった教え子を眺めるように見回した。その視線を受け、彼らは意外にも熱意の籠もった瞳で同意を示すように首を縦に振る。男は再び向き直って少年に呼びかける。
「生徒たちの学習の一貫です。いい刺激になる」
そう口にし、改めて要請する。
「ご協力願えませんかな?」
「そこまで言われるなら……。しかし私は、あなた方の使われる魔法の構成も作法もよく知りません。我流で対応させて頂くことになるが、それでもよろしいですか」
「構わない」
言うと彼は両手をパン、と高く打ち鳴らして生徒たちに合図した。
「では十分休憩。その間にドクターには準備をして頂こう」
先週から同僚となった男の呼びかけに、回廊を通りすがる少年はふと足を止めた。
ローデシア王都に位置するエルクランド王立学院(ロイヤル・スクール)、学舎の北東には広大な敷地が広がっており、剣技や魔道の演習場となっている。学院では、次代を担う者として学問だけでなく武芸の修養も必須とされているから、必定、生徒たちは週に数回厭でもそこに通うことになる。
しかし少年は生徒の身ではない。彼は教える側の身分であり、遠く隣国からはるばる王都へ招かれた、歴とした客員講師であった。現に午後一番の概説の講義を終えたばかりで、つい先程彼の出したレポート課題に今頃生徒たちは四苦八苦していることだろう。
眼鏡の奥の赤茶けた瞳をつい、と声の主に向け、彼は微かに首を傾げる。相手の顔は勿論見知っているが、今まで挨拶以上の言葉を交わしたことはない。一体何の用だろうか。
「リンドグレーン先生、どうしたんだろうね」
「ドクターが人気だから目の敵にしてるんじゃないの、リンディ。僕はそう思うね」
教科書を小脇に抱えたまま演習場の方を覗き込むのはユーリだ。彼に対して、隣を歩いていた同じく制服姿のジルティニアが小声で囁く。『リンディ』というのは彼らを呼び止めた教官・リンドグレーンの愛称だった。しかし決して好意から出ているものではなく、生徒たちを頭ごなしに押さえつけ気味な彼を小馬鹿にするニュアンスが拭えない。
「あなたは相当な魔道の使い手だと聞く。どうだろう、ひとたびお相手して頂けないだろうか」
リンドグレーンは言った。
言葉の上では誘いかけであるが、何処か険を含んだ声音だと少年には聞こえた。この男は、どう見ても学院(アカデミア)で学ぶ生徒たちと同年代の、子供の姿形(なり)をした異国の『博士(ドクター)』をいたく敵視しているらしい。
彼は実践魔道担当の教官だ。どうやら授業の途中らしく、その周囲には、身のこなしが楽な演習着を着用した大勢の生徒たちがいる。休憩の鐘は既に鳴ったというのに熱心なものだ。教官が中断を指示しない限り受講生も解放されないのだから、全く大変だと生徒の身になって彼は思った。
「私の法力(ちから)は見世物ではありませんから」
観客(ギャラリー)に見せびらかすほど酔狂ではない、とすげなく断ろうとした少年をリンドグレーンは引き止める。
「だが、皆も異国の魔道に興味がある。なあ?」
そう言って、男は周りに群がった教え子を眺めるように見回した。その視線を受け、彼らは意外にも熱意の籠もった瞳で同意を示すように首を縦に振る。男は再び向き直って少年に呼びかける。
「生徒たちの学習の一貫です。いい刺激になる」
そう口にし、改めて要請する。
「ご協力願えませんかな?」
「そこまで言われるなら……。しかし私は、あなた方の使われる魔法の構成も作法もよく知りません。我流で対応させて頂くことになるが、それでもよろしいですか」
「構わない」
言うと彼は両手をパン、と高く打ち鳴らして生徒たちに合図した。
「では十分休憩。その間にドクターには準備をして頂こう」
「準備っていっても……用意するものなんて何もないんだけど」
「法具も何も使わないの?」
「? 使う必要があるの?」
きょとんと眼を瞬かせて、彼は訊く。
「あのひとはどれくらいの魔道の使い手なのかな?」
「近衛騎士団の高級魔導士だよ!」
不思議そうに尋ねるアレクウェルに、ユーリとジルティニアは揃って声を上げた。近衛騎士団といえば王家直属の護衛部隊で、国教会付きの神殿騎士と並び、剣士も魔導士も生え抜き揃いだ。
「うーん」
よくわからないけど、と再度首を傾げつつアレクウェルは演習場を眺めた。異国出身の彼にとっては、魔導士の階級も騎士団における地位も全く実感を伴わない。
「ええと、これだけちょっと持っててくれる?」
脇に抱えていた数冊の教材を、彼はユーリに受け渡す。そして眼鏡も外してその上に乗せた。
「あれ、眼鏡は?」
「別に目が悪いわけじゃないんだ。眼鏡は単なるフィルターだから。これがないと要らないものまで見えすぎる」
「法具も何も使わないの?」
「? 使う必要があるの?」
きょとんと眼を瞬かせて、彼は訊く。
「あのひとはどれくらいの魔道の使い手なのかな?」
「近衛騎士団の高級魔導士だよ!」
不思議そうに尋ねるアレクウェルに、ユーリとジルティニアは揃って声を上げた。近衛騎士団といえば王家直属の護衛部隊で、国教会付きの神殿騎士と並び、剣士も魔導士も生え抜き揃いだ。
「うーん」
よくわからないけど、と再度首を傾げつつアレクウェルは演習場を眺めた。異国出身の彼にとっては、魔導士の階級も騎士団における地位も全く実感を伴わない。
「ええと、これだけちょっと持っててくれる?」
脇に抱えていた数冊の教材を、彼はユーリに受け渡す。そして眼鏡も外してその上に乗せた。
「あれ、眼鏡は?」
「別に目が悪いわけじゃないんだ。眼鏡は単なるフィルターだから。これがないと要らないものまで見えすぎる」
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