未完成の言葉の欠片 / ※印は要注意orネタバレ / 二次はクリア後前提です
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2026.04.04 Saturday
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07/02/03
2007.02.03 Saturday
「殿下がそんな気難しいお顔をなさっていては、娘達もお傍に上がること叶いませんわ」
扇で佳顔の口許を隠した女が、くすりと含み笑いをする。
「わざわざ花柳の宿りに降(くだ)られて酒(ささ)ばかり召されることには、何か理由(わけ)がありまして?」
銀髪の青年に近付いた社交場(サロン)の主が、柔らかく言いながら寄り添うように彼の腕に手を触れた。窓の外の夜景に視線を注いでいた男は、「……シニョーラ」女の生まれ故郷であるエトルリア風の敬称で彼女を呼び、振り返る。
「褥を一つにするだけが遊び方ではあるまい」
「まあ殿下、そのようなこと、殿下のようなお若い方が口になさる台詞ではなくてよ」
上流階級の婦人さながらの嫋やかな身のこなしで、女はするりと扇を閉じた。彼女の名はベアトリーチェ・ロッシ――本名のそれよりも、『マダム・マッダレーナ』の通り名の方が有名だろう。自ら『罪の女』を名乗り、西大陸の裏社交界(ドゥミ・モンド)を風靡した徒花。
かの南方の半島に貴族の娘として生まれたが、エトルリア最期の瞬き、爛熟と享楽の時代にロッシ家は逆賊の一門として断絶の憂き目に遭い、天涯孤独となった少女時代の彼女はローデシア王国へと落ち延びた。その先で、我が身の美貌と“歌姫”たる才知を武器に王侯貴族の寵愛を受ける高級娼婦(クルティザンヌ)――彼女の故国に習えばコルティジャーナか――となった、と言われている。やがて彼女はある帝国貴族の愛人となり海を渡った。現在ではその某伯爵に与えられた邸宅にサロンを開き、女主人として社交の場を提供している。経歴から推測すれば花の盛りはとうに過ぎているはずだが、その容貌はなお衰えを知らず見る者を惹き付ける。
美しさは言うまでもなく、数ヶ国語を巧みに操り、詩作や楽器もこなす教養の高さをも彼女は持っていた。海外情勢への造詣も深く、政治談義にも加わってサロンの男達を大いに感嘆させる。
クルティザンヌは常に最先端の流行とパトロンから贈られたきらびやかな宝石の数々を身に纏い、華やかな夜の街へと繰り出す。オペラ座やカジノには貴婦人と見紛うばかりの娼婦達が集っている。決して、ただ金貨の対価として身体を鬻ぐだけではない。“恋人”を選別する権利は、専ら彼女達の方にあった。貴族や裕福な商人、芸術家、時には歴代の国王まで、多くの男を手玉に取り破滅へと追いやった妖婦(ヴァンプ)。彼女ら高級娼婦の気を引き、または手元に留めるためにどれだけ高価な――時として破産を導くまでの――貢ぎ物を与えられるかが、男のステータスであった。
ベアトリーチェが奈落へと突き落とした男の数は、如何程だろう。それは自分を地に貶めた同じ貴族階級への、復讐でもあったのかもしれない。その何処までが真実かは、彼女のみぞ知る、というわけだ。
女一人のために自ら破滅への道を突き進んだ彼らの心情は理解しがたいものがあるが、確かにベアトリーチェのさばけた言葉の端々に表れる教養には心地よいものがあるし、周到に作り上げられた、魅せるための媚びや仕種に見境なく酔い痴れてしまうのが男の哀れな性(さが)なのだろう。
彼は唇で笑って視線を流し、白手袋に包まれた指先でとんとん、とテーブルを軽く叩いた。小姓の衣装に身を包んだ給仕役の少年が、すぐさま近寄ってくる。囁きのような申し付けに、一礼をして踵を返す。
再び現れた少年が手にしていたのは南領アールブルク産の三十年物の葡萄酒。気候条件から白ワイン用の種の栽培が主流である帝国(このくに)で、アールブルクは貴重な最高品種黒葡萄の生産地だ。多少無理のある所望の品が間を置かず出される辺りが、マダム・マッダレーナのサロンらしい。
白いクロスの上に置いたボトルごとをそっと女に向けて勧め、
「愛らしく毒を持つ君の“娘”達に」
彼は薄く笑ってそう言った。
扇で佳顔の口許を隠した女が、くすりと含み笑いをする。
「わざわざ花柳の宿りに降(くだ)られて酒(ささ)ばかり召されることには、何か理由(わけ)がありまして?」
銀髪の青年に近付いた社交場(サロン)の主が、柔らかく言いながら寄り添うように彼の腕に手を触れた。窓の外の夜景に視線を注いでいた男は、「……シニョーラ」女の生まれ故郷であるエトルリア風の敬称で彼女を呼び、振り返る。
「褥を一つにするだけが遊び方ではあるまい」
「まあ殿下、そのようなこと、殿下のようなお若い方が口になさる台詞ではなくてよ」
上流階級の婦人さながらの嫋やかな身のこなしで、女はするりと扇を閉じた。彼女の名はベアトリーチェ・ロッシ――本名のそれよりも、『マダム・マッダレーナ』の通り名の方が有名だろう。自ら『罪の女』を名乗り、西大陸の裏社交界(ドゥミ・モンド)を風靡した徒花。
かの南方の半島に貴族の娘として生まれたが、エトルリア最期の瞬き、爛熟と享楽の時代にロッシ家は逆賊の一門として断絶の憂き目に遭い、天涯孤独となった少女時代の彼女はローデシア王国へと落ち延びた。その先で、我が身の美貌と“歌姫”たる才知を武器に王侯貴族の寵愛を受ける高級娼婦(クルティザンヌ)――彼女の故国に習えばコルティジャーナか――となった、と言われている。やがて彼女はある帝国貴族の愛人となり海を渡った。現在ではその某伯爵に与えられた邸宅にサロンを開き、女主人として社交の場を提供している。経歴から推測すれば花の盛りはとうに過ぎているはずだが、その容貌はなお衰えを知らず見る者を惹き付ける。
美しさは言うまでもなく、数ヶ国語を巧みに操り、詩作や楽器もこなす教養の高さをも彼女は持っていた。海外情勢への造詣も深く、政治談義にも加わってサロンの男達を大いに感嘆させる。
クルティザンヌは常に最先端の流行とパトロンから贈られたきらびやかな宝石の数々を身に纏い、華やかな夜の街へと繰り出す。オペラ座やカジノには貴婦人と見紛うばかりの娼婦達が集っている。決して、ただ金貨の対価として身体を鬻ぐだけではない。“恋人”を選別する権利は、専ら彼女達の方にあった。貴族や裕福な商人、芸術家、時には歴代の国王まで、多くの男を手玉に取り破滅へと追いやった妖婦(ヴァンプ)。彼女ら高級娼婦の気を引き、または手元に留めるためにどれだけ高価な――時として破産を導くまでの――貢ぎ物を与えられるかが、男のステータスであった。
ベアトリーチェが奈落へと突き落とした男の数は、如何程だろう。それは自分を地に貶めた同じ貴族階級への、復讐でもあったのかもしれない。その何処までが真実かは、彼女のみぞ知る、というわけだ。
女一人のために自ら破滅への道を突き進んだ彼らの心情は理解しがたいものがあるが、確かにベアトリーチェのさばけた言葉の端々に表れる教養には心地よいものがあるし、周到に作り上げられた、魅せるための媚びや仕種に見境なく酔い痴れてしまうのが男の哀れな性(さが)なのだろう。
彼は唇で笑って視線を流し、白手袋に包まれた指先でとんとん、とテーブルを軽く叩いた。小姓の衣装に身を包んだ給仕役の少年が、すぐさま近寄ってくる。囁きのような申し付けに、一礼をして踵を返す。
再び現れた少年が手にしていたのは南領アールブルク産の三十年物の葡萄酒。気候条件から白ワイン用の種の栽培が主流である帝国(このくに)で、アールブルクは貴重な最高品種黒葡萄の生産地だ。多少無理のある所望の品が間を置かず出される辺りが、マダム・マッダレーナのサロンらしい。
白いクロスの上に置いたボトルごとをそっと女に向けて勧め、
「愛らしく毒を持つ君の“娘”達に」
彼は薄く笑ってそう言った。
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La Traviata
ニイヤ誕なのでニイヤ関連話の触りを。娼館(じゃないけど)通いニイヤはどうなのかと思いつつ妃もいないしこの時代の男の嗜みというやつです。紳士の社交場です。遊ぶためだけじゃないんだぜ。
La Traviata
ニイヤ誕なのでニイヤ関連話の触りを。娼館(じゃないけど)通いニイヤはどうなのかと思いつつ妃もいないしこの時代の男の嗜みというやつです。紳士の社交場です。遊ぶためだけじゃないんだぜ。
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