未完成の言葉の欠片 / ※印は要注意orネタバレ / 二次はクリア後前提です
[PR]
2026.04.04 Saturday
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
フィルとリディ
2007.02.12 Monday
「皇子はシグルト様に似ていらっしゃいますね」
不意に立ち止まったリディオールは小柄な肢体で精一杯背伸びをしながら、広間(サルーン)の壁の高くを見上げている。手の届かない位置、始祖の肖像画。
「シグルトを見たことがあるとでも言うのか?」
「絵姿に、です」
「……それは褒め言葉なのか? シグルトが美男子だったという記録は何処にもないぞ」
フィリップは呆れ声で応える。彼女の視線の先の画布に写し取られているのは、世界に遍く轟いた『英雄』の名には程遠くも見える、細身の穏やかな青年だった。背を流れる銀髪を緩く三つ編みに束ねて、身に纏うものも当時の質素な普段着だ。
父親殺し、革命の寵児、破壊と非道の征服者――自らの手で戴冠した最初の皇帝の若き日。この肖像を見て誰がそんな風に思うだろう。ほんの小さな歴史の歪みがなければ、ただの一田舎領主の子としてその生涯を終えたに違いないのに。何を思って、多くの犠牲を払ってまでこの帝国(くに)を打ち建てたのだろう。彼の血を引いているであろう自分にも、その内心(こころ)を推し量ることができない。
「けれどこの姿絵のシグルト様は、とても魅力的だと思います。お優しそうで」
そう口にしたリディオールに対し、フィリップは意地悪く頬を歪める。
「リドはこういうのが好みか」
「そっ……そういう意味ではありません! そんな畏れ多い!」
「シグルトの皇后はオークスだったのだから、おまえにも皇后になる可能性はあったのにな。……その格好では無理か」
子供っぽく頬を膨らませた彼女が身に纏うのは、小姓の装束だ。その身形からも立ち居振る舞いからも当代の淑女らしさというものは全く欠けていたし、一見すれば少年以外の何者でもない。
「いいんです。わたしはフィリップ殿下の従者ですから。ルイゼ妃よりメルヒオルの役の方がずっといいです」
「そしておまえも僕より先に死ぬ気か。オークスとは難儀だな」
メルヒオル・オークスとルイゼ・オークス。ラディノフ公国の貴族階級であり、策謀により公国の中央を追われシグルトに味方してからは、彼を援け建国の功労者となった兄妹。妹ルイゼはシグルトの妻、最初の帝国皇后となり、兄のメルヒオルはヴァルファムの建国を見ずシグルトを玉座に就かせて自分は死んでいった。
「自己犠牲なんて馬鹿げている。死んでいく奴は満足かもしれないが、残された者はどう思う?」
「皇子はお優しいんですね」
彼女が妙に大人びた顔で言うものだから、無性に腹が立った。
不意に立ち止まったリディオールは小柄な肢体で精一杯背伸びをしながら、広間(サルーン)の壁の高くを見上げている。手の届かない位置、始祖の肖像画。
「シグルトを見たことがあるとでも言うのか?」
「絵姿に、です」
「……それは褒め言葉なのか? シグルトが美男子だったという記録は何処にもないぞ」
フィリップは呆れ声で応える。彼女の視線の先の画布に写し取られているのは、世界に遍く轟いた『英雄』の名には程遠くも見える、細身の穏やかな青年だった。背を流れる銀髪を緩く三つ編みに束ねて、身に纏うものも当時の質素な普段着だ。
父親殺し、革命の寵児、破壊と非道の征服者――自らの手で戴冠した最初の皇帝の若き日。この肖像を見て誰がそんな風に思うだろう。ほんの小さな歴史の歪みがなければ、ただの一田舎領主の子としてその生涯を終えたに違いないのに。何を思って、多くの犠牲を払ってまでこの帝国(くに)を打ち建てたのだろう。彼の血を引いているであろう自分にも、その内心(こころ)を推し量ることができない。
「けれどこの姿絵のシグルト様は、とても魅力的だと思います。お優しそうで」
そう口にしたリディオールに対し、フィリップは意地悪く頬を歪める。
「リドはこういうのが好みか」
「そっ……そういう意味ではありません! そんな畏れ多い!」
「シグルトの皇后はオークスだったのだから、おまえにも皇后になる可能性はあったのにな。……その格好では無理か」
子供っぽく頬を膨らませた彼女が身に纏うのは、小姓の装束だ。その身形からも立ち居振る舞いからも当代の淑女らしさというものは全く欠けていたし、一見すれば少年以外の何者でもない。
「いいんです。わたしはフィリップ殿下の従者ですから。ルイゼ妃よりメルヒオルの役の方がずっといいです」
「そしておまえも僕より先に死ぬ気か。オークスとは難儀だな」
メルヒオル・オークスとルイゼ・オークス。ラディノフ公国の貴族階級であり、策謀により公国の中央を追われシグルトに味方してからは、彼を援け建国の功労者となった兄妹。妹ルイゼはシグルトの妻、最初の帝国皇后となり、兄のメルヒオルはヴァルファムの建国を見ずシグルトを玉座に就かせて自分は死んでいった。
「自己犠牲なんて馬鹿げている。死んでいく奴は満足かもしれないが、残された者はどう思う?」
「皇子はお優しいんですね」
彼女が妙に大人びた顔で言うものだから、無性に腹が立った。
PR