未完成の言葉の欠片 / ※印は要注意orネタバレ / 二次はクリア後前提です
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2026.04.04 Saturday
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04/03/18
2004.03.18 Thursday
「おじさま、ここ、どうしたの?」
不意に下方から声がした。着替えの中途で思わず手を止め、ぎょっとして彼はその主を見下ろす。視線の先にいたのはまだ幼い少女。彼はあからさまに眉を顰めると、外しかけていたシャツの釦(ボタン)を几帳面に全て留め直した。
そうして少女の頭を上からぽんぽん、と少し強めに叩く。
「レージィ、人が着替えているのを覗くものじゃない」
「のぞいてなんかいないわ。見てるの」
「同じこと」
「……おじさまのいじわる」
叱られたことよりもむしろ、崩れた髪形を気にするようにテレジアは両手を頭の上にやる。折角彼に見せようと綺麗に結い上げてもらったのに、それを台無しにされ、むっとした様子で少女は唇を尖らせる。
不意に下方から声がした。着替えの中途で思わず手を止め、ぎょっとして彼はその主を見下ろす。視線の先にいたのはまだ幼い少女。彼はあからさまに眉を顰めると、外しかけていたシャツの釦(ボタン)を几帳面に全て留め直した。
そうして少女の頭を上からぽんぽん、と少し強めに叩く。
「レージィ、人が着替えているのを覗くものじゃない」
「のぞいてなんかいないわ。見てるの」
「同じこと」
「……おじさまのいじわる」
叱られたことよりもむしろ、崩れた髪形を気にするようにテレジアは両手を頭の上にやる。折角彼に見せようと綺麗に結い上げてもらったのに、それを台無しにされ、むっとした様子で少女は唇を尖らせる。
しかし彼はそうとは捉えなかったようで、回転椅子に腰掛けると続けて彼女に訊いた。
「君はじっと誰かに見られていても着替えられる?」
「わたくしは女の子だからだめよ。でもおじさまは男の子でしょ。ルディだって文句言わないもの」
もっともらしい口調で、テレジアは一つ年下の弟の名前を出す。
「ルドルフはまだ子供だろう?」
五つか六つの幼子と一緒にされても困る、とばかりに嘆息する彼。それにルドルフが彼女に文句を言わないのは、彼女の闖入を気にしていないからというより、姉のテレジアに逆らうのが怖いからだと彼は思った。どうもこの家系は女性の立場の方が強くて、自分達のような男からしてみれば何かと大変である。
幼いルドルフも今からさぞかし苦労していることだろう。まるで目に浮かぶようだ。あの少年は両親や姉に似ず優しすぎるというか、妙に気の弱いところがあるから。
だが、彼がそんな風に言っても、それでもまだテレジアは不満げである。その様子を見てもう一度溜め息をつき、彼は諭すように口にした。
「男にだって見られて厭な人もいるんだ」
そうして疲れたように背凭れに深く躰を沈める。反動で僅かに椅子が回転を始めた。彼は床に足を付けてその動きを止め、一瞬天井を見上げる。そしてはた、と気付いたように眉間に皺を寄せた。彼女はいつの間にこの部屋に侵入したのだ。
彼は背を丸めてテレジアを見ると、更に忠告を重ねる。
「それにしても……一体いつ入ってきたの、レージィ。君はいつも勝手だな。たとえ見知った相手でも、他人(ひと)の部屋を訊ねる時はノックくらいしなさい」
続けて叱られて少女はしばらく黙ったままでいたが、やがて不承不承といった感じに返事をする。
「はぁい」
「返事は短く」
「はい、おじさま」
間延びした応答にすぐに指摘を入れられて、彼女は改めてきちんと言い直した。〈おじさま〉は挨拶や言葉遣いには妙に厳しい。テレジアはよく彼に怒られることになるのだが、その分、女官や家庭教師にとやかく言われる回数は減った。
彼女は気を取り直して、彼が自分のために用意してくれた椅子に座った。机の側に並ぶようにして、彼の顔をじっと見上げる。
「ねえおじさま、ここ」
テレジアはもう一度言いながら、トントン、と自分の鎖骨の間の少し下辺りを指先で叩いた。
「赤くなってたわ。虫にでもさされたの?」
彼は少女の言葉に僅かに目を瞠り、自分の指でシャツの合わせを押さえる。驚いた様子だった。テレジアは痛いのかと思って、彼の襟元に手を伸ばす。
「見せて」
「触らない方がいい。呪われるよ」
「のろわれる? どうして?」
テレジアの手を跳ね除けて発されたそれが、ふざけて言ったものなのかそれとも本気なのか判らなくて、彼女は同じ言葉を反芻するように訊き返す。彼らしくない台詞だったからだ。しかし彼から戻ってきた答えはこのようなものだった。
「秘密」
「君はじっと誰かに見られていても着替えられる?」
「わたくしは女の子だからだめよ。でもおじさまは男の子でしょ。ルディだって文句言わないもの」
もっともらしい口調で、テレジアは一つ年下の弟の名前を出す。
「ルドルフはまだ子供だろう?」
五つか六つの幼子と一緒にされても困る、とばかりに嘆息する彼。それにルドルフが彼女に文句を言わないのは、彼女の闖入を気にしていないからというより、姉のテレジアに逆らうのが怖いからだと彼は思った。どうもこの家系は女性の立場の方が強くて、自分達のような男からしてみれば何かと大変である。
幼いルドルフも今からさぞかし苦労していることだろう。まるで目に浮かぶようだ。あの少年は両親や姉に似ず優しすぎるというか、妙に気の弱いところがあるから。
だが、彼がそんな風に言っても、それでもまだテレジアは不満げである。その様子を見てもう一度溜め息をつき、彼は諭すように口にした。
「男にだって見られて厭な人もいるんだ」
そうして疲れたように背凭れに深く躰を沈める。反動で僅かに椅子が回転を始めた。彼は床に足を付けてその動きを止め、一瞬天井を見上げる。そしてはた、と気付いたように眉間に皺を寄せた。彼女はいつの間にこの部屋に侵入したのだ。
彼は背を丸めてテレジアを見ると、更に忠告を重ねる。
「それにしても……一体いつ入ってきたの、レージィ。君はいつも勝手だな。たとえ見知った相手でも、他人(ひと)の部屋を訊ねる時はノックくらいしなさい」
続けて叱られて少女はしばらく黙ったままでいたが、やがて不承不承といった感じに返事をする。
「はぁい」
「返事は短く」
「はい、おじさま」
間延びした応答にすぐに指摘を入れられて、彼女は改めてきちんと言い直した。〈おじさま〉は挨拶や言葉遣いには妙に厳しい。テレジアはよく彼に怒られることになるのだが、その分、女官や家庭教師にとやかく言われる回数は減った。
彼女は気を取り直して、彼が自分のために用意してくれた椅子に座った。机の側に並ぶようにして、彼の顔をじっと見上げる。
「ねえおじさま、ここ」
テレジアはもう一度言いながら、トントン、と自分の鎖骨の間の少し下辺りを指先で叩いた。
「赤くなってたわ。虫にでもさされたの?」
彼は少女の言葉に僅かに目を瞠り、自分の指でシャツの合わせを押さえる。驚いた様子だった。テレジアは痛いのかと思って、彼の襟元に手を伸ばす。
「見せて」
「触らない方がいい。呪われるよ」
「のろわれる? どうして?」
テレジアの手を跳ね除けて発されたそれが、ふざけて言ったものなのかそれとも本気なのか判らなくて、彼女は同じ言葉を反芻するように訊き返す。彼らしくない台詞だったからだ。しかし彼から戻ってきた答えはこのようなものだった。
「秘密」
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