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未完成の言葉の欠片 / ※印は要注意orネタバレ / 二次はクリア後前提です
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04/05/14
「やっぱりここにいた。思った通りだわ」
 少女の上げた声に、彼はゆっくりと振り返った。
「……テレジア」
 物見の塔の遥か上、見晴らし台の柱に凭れて遠い夜空を眺めていた少年の傍らに、テレジアは駆け寄る。地上の喧騒など我関せずといった面持ちの静かな空気。その中で落ち着いた声に名前を呼ばれ、不意に幼い頃に戻ったような気分になる。長い空白の時間を一時(いちどき)に埋めてしまうような、懐かしさ。

 長い夜会服(ドレス)の裾を踏みつけないように持ち上げ、息を切らしたままテレジアは彼の隣に立った。並んで容易く目線が揃うことに、小さな違和感を覚える。
 そういえば彼と最後に会った時は、自分はまだ彼の肩ほどの身長もなかったのだ。
 それが今ではせいぜい頭半分の差。十年近い歳月は、いつまでも彼女を子供のままの姿には留めてくれなかった。背も随分伸び、淑女らしさを求められることが増え、あの頃のように無邪気に思うまま振舞うことはもう許されない。
 けれど彼の前だけでは、煩わしい制約を全て忘れてもいいような気がする。そんな風に思いたかった。
「今までみたいに『レージィ』って呼んで、叔父様」
 テレジアがねだるようにそう請うと、彼は何処か少しぎこちなく「レージィ」小さく口にした。そしてやや困ったような表情で笑みを浮かべる。大人びた雰囲気と、幼さが混じった面差しをしていた。目元にかかる前髪の奥、黒目がちな睛がそう思わせるのかもしれない。
「どうして僕が戻ってきていると判ったの」
 不思議そうに問う彼に向かって、テレジアは顔を上げて言った。
「わたくし、ずっと庭師に見張らせていたのよ。叔父様が帰ってきたらすぐに知らせるように、って。随分待ったわ」
 彼が塔の鍵を残して行ってしまってから、毎日ずっと心待ちにしていた。この日が来ることを。手紙は時折交わしていたけれど、文字だけの交流と、実際こうして目の前にいるのとでは大きく違う。
 君には敵わないな、と彼は半ば感心したような口調で言い、それから眩しいものを見るように双眸を細めた。
「母君に似て綺麗になったね、レージィ。もうすっかり大人の女性だ」
「……叔父様はちっとも変わっていないわ」
 言葉にしてしまってから、テレジアは自分の失言に気付く。しかし彼は責めるでもなく、ただ静かに笑っただけだった。
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