忍者ブログ
未完成の言葉の欠片 / ※印は要注意orネタバレ / 二次はクリア後前提です
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

仲悪い組(2)
 小さく手を振りながら熾己の後ろ姿を見送って、彼が階段へと続く角を曲がったのを確認してから、キースは第三資料室の扉を開けた。静けさに包まれた部屋の中は、古い紙の匂いがする。室内にはもともと自分達しかいなかったから、相変わらずアシュレイが独りで机に向かっているはずだ。
 書架の間を通って奥まで進むと、鬱陶しそうに濃い灰色の前髪をかき上げるアシュレイの姿が目に入る。キースは先程まで熾己が座っていた彼の対面の椅子を引き、横向きに腰かけた。

「……アシュレイ、さっきの論理は帝政にはあんまり関係ないぞ」
 血統第一なんだし、とぞんざいに脚を組みながら続ける。
 彼らの地位はあくまでも生得的なものだ。貴族と平民の隔てが、他所と比較して少ないこの国であっても、その体制を覆すことまではできない。高貴なる義務(ノブレス・オブリージュ)を謳う者がいてもそれは地位の代償にすぎず、その逆ではないだろう。
「当然。でも反論しなかっただろ」
「そうやってなあ……! ものすごく無礼だろ、いじめちゃってどうすんだよ! カワイソウだろ熾己様が!」
「別にいじめてない」
 面を上げたのも束の間、アシュレイは素っ気なく言って再び手元に視線を落としてしまう。ノートの罫線の間を埋めていく几帳面な文字。あのなあ、とキースは顔をしかめて頭を抱えた。
「もうちょっと敬意というものを」
 その呟きにアシュレイはふと、真顔でキースを見る。
「何で」
「……何で、て」
 まさかそんな風に問われるとは思わなかった。皇家の人間に敬意を払うのは至極当然のこと、などと口煩く指摘するのは、彼らの普段の行動パターンから考えればむしろアシュレイの役割だろう。バン、と机を掌で叩いてキースは身を乗り出す。
「当たり前だろ! あのひと皇子様で俺らは平民! 身分が全然違うわけ! 普通なら手が届かない人なの!」
「おまえにそんなことを説かれるとは思わなかった。そもそも、敬意についておまえにとやかく言われたくないよ。自分の方がよほど馴れ馴れしいくせに」
「おっ、俺は俺なりに熾己様尊敬してますから! 仲良くはなりたいけど、何処かの誰かさんみたいに決して馬鹿にしてるわけじゃありませんから!」
「阿呆らしい」
 短く、低く吐き捨てて、アシュレイは机に腕を突いて立ち上がる。そして広げられた教科書類を――勿論自分の分だけ――丁寧に片付け始めた。ノートもペンも全部ひとつにまとめて、抱え上げる。
「ちょっと! 何処行くんだよ!」
「自分の部屋に帰る。熾己様いないんだったらこんなとこに集まってる必要ないだろ」
「待てって!」
「やだ」
 大人気ない一言を残し、キースに軽い一瞥を向けただけで彼はさっさと資料室から出ていってしまった。パタン、と扉の閉まる音が部屋の中に反響する。ひとり部屋の中に取り残されたキースは、彼にしては珍しく、苦虫を噛み潰したような表情で天井を見上げた。そして全身の力を抜いて深くため息をつく。
 全く、この先が思いやられる。
PR
| prev | top | next |
| 82 | 81 | 80 | 74 | 73 | 72 | 71 | 67 | 66 | 64 | 58 |
カレンダー
03 2026/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30
ブログ内検索
最新記事
忍者ブログ  [PR]
  /  Design by Lenny