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未完成の言葉の欠片 / ※印は要注意orネタバレ / 二次はクリア後前提です
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旋光:贅沢な世界
センコロ、ミカとファビアン。メトロからサルベージしてきましたが何のことはない単なる膝枕話。
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メモメモ。
便宜上BABEL区分だけど正確には同世界観の『砂礫都市』ネタ。
 
鳴神
 ある初夏の一日。
 例年にない規模の雷雨に見舞われ、帝都は陰鬱な日を迎えることとなった。太陽は一度も空に顔を見せぬまま厚い雲の向こうに隠れ、辺りに立ち籠めるのはただ暗闇のみ。降りしきる雨の所為で気温も下がり、この季節には珍しいほどひんやりとしている。お陰で過ごし易いといえばそうなのだが、むしろ肌寒さを感じるほどでありがたくはない。
 夜が更けても雨はやむ気配を見せず、逆にその激しさをいや増すばかりだった。
 大粒の雨が窓の硝子(ガラス)を叩く音。厚いカーテン越しにも稲妻の迸(はし)る様子が見て取れる。昏(くら)い夜空を灼く閃光(ひかり)に続き、ほんの僅かな時間差で轟音が鼓膜を突いた。何処かに落ちたかもしれない。
「雷、とおくならないね」
 眠れない様子で熾己が言う。
 もう一時間は前にベッドに入ったというのに、眩しい稲光と轟く落雷の音に目が冴えるばかりで寝付けないようだった。貴石のような緋色の眼をぱっちりと開いて、少年は天蓋を見つめている。相変わらず瞼は落ちない。
 ずっとそんな調子で、時折ぽつりぽつりと言葉を交わすものの、余計に眠れなくなっては困るので会話には発展しなかった。
「母上は雷がにがてなの」ふと、思い出したように熾己が口にする。「だいじょうぶかな」
旋光:リリED+ミカED+妄想
「ミカッ!」遠くから呼び声。
 ああ懐かしい響きだ、と現実から隔絶された思考の片隅で思う。薬の効果で緩やかに鈍く融けていった痛みと引き換えに、意識は今一つ覚醒しきらない。波音、浜辺を蹴る靴の先、穂波の色の髪。五感に認めるものも、地球の大気に拡散するように何処かちぐはぐで。
 傍らには少女のかそけない体温がある。柔らかな桃色の毛先が触れる。微かな鼓動。けれど確かに繋ぎ止められている。
 墜ちたランダー。ヴェントゥーノとブリンスタ。秘密裏に開発された兵器。能力強化の少女。暴走したリリ。破壊。
 面を上げる。いつの間にか、声の主はすぐ側まで来ていた。苛立ちを含んだ翠色の瞳に見下ろされる。なにしてんだ、と、険と安堵の綯い交ぜになった台詞。
 彼は答える。
「動けないんだ。……脚、折れたみたいで。鎮痛剤は打ったんだけど」
 その代わりに感覚がない。ちっ、と舌打ちしてファビアンは顔をしかめる。
「リリは」
「生きてる」
「女が先。おまえはそこでじっとしてろ」
 彼は自分を指差して厳命する。そして細い少女の肢体を軽々と、けれど壊れ物を扱うかのように繊細に両の腕で抱き上げた。
 優しいな、と思う。悪ぶった容姿とは裏腹。気分がよくなって、少しだけ笑って答えた。「アイ・サー」
 急ぐ後ろ姿を見て思う。色々ないがしろにしたというのに、こうして自分のことまで助けにきてくれる。きっと誰にだってそうだ。それでも。
 そんな風に好かれる資格なんて、俺には。
(ないと思うんだけどなあ……)

「おい、こら。待ってろとは言ったが寝てろとは誰も言ってねえだろうが」
 波打ち際に闇色の繊い髪が零れている。浜辺に仰向いたミカの、頭の先でファビアンは軽く砂を蹴った。予備動作もなく彼はぱちりと眼を開く。昏い深海の色。虹彩が微かに巡って、自分を見た。色付きの硝子玉みたいな、感情の薄い瞳だ。
 起き上がりもせず、ミカは黙ってじっとこちらに視線を注いでいる。軍服もファーも髪も、全て砂塵塗れだった。
 そしてすぐ足下まで海水が迫っている。潮が満ちてきたのだろう。彼らが住む月の、不思議な引力。
「波に飲まれんぞ、そのうち」
「迎えにきたのが君でよかった。父さんと母さんが来たのかと思ってた」
 表情も変えず、淡々とミカは口にする。
 彼が幼い頃に死んだ両親。彼の行動のきっかけであり、もはや現世には存在せざる人々。つまり死そのもの。その喩えは悪趣味だ。
「ふざけたこと言うな」

「俺を呼べばいいだろ。何処に墜ちても、見つけてやるよ」
 
フィルとリディ
「皇子はシグルト様に似ていらっしゃいますね」
 不意に立ち止まったリディオールは小柄な肢体で精一杯背伸びをしながら、広間(サルーン)の壁の高くを見上げている。手の届かない位置、始祖の肖像画。
「シグルトを見たことがあるとでも言うのか?」
「絵姿に、です」
「……それは褒め言葉なのか? シグルトが美男子だったという記録は何処にもないぞ」
 フィリップは呆れ声で応える。彼女の視線の先の画布に写し取られているのは、世界に遍く轟いた『英雄』の名には程遠くも見える、細身の穏やかな青年だった。背を流れる銀髪を緩く三つ編みに束ねて、身に纏うものも当時の質素な普段着だ。
 父親殺し、革命の寵児、破壊と非道の征服者――自らの手で戴冠した最初の皇帝の若き日。この肖像を見て誰がそんな風に思うだろう。ほんの小さな歴史の歪みがなければ、ただの一田舎領主の子としてその生涯を終えたに違いないのに。何を思って、多くの犠牲を払ってまでこの帝国(くに)を打ち建てたのだろう。彼の血を引いているであろう自分にも、その内心(こころ)を推し量ることができない。
「けれどこの姿絵のシグルト様は、とても魅力的だと思います。お優しそうで」
 そう口にしたリディオールに対し、フィリップは意地悪く頬を歪める。
「リドはこういうのが好みか」
「そっ……そういう意味ではありません! そんな畏れ多い!」
「シグルトの皇后はオークスだったのだから、おまえにも皇后になる可能性はあったのにな。……その格好では無理か」
 子供っぽく頬を膨らませた彼女が身に纏うのは、小姓の装束だ。その身形からも立ち居振る舞いからも当代の淑女らしさというものは全く欠けていたし、一見すれば少年以外の何者でもない。
「いいんです。わたしはフィリップ殿下の従者ですから。ルイゼ妃よりメルヒオルの役の方がずっといいです」
「そしておまえも僕より先に死ぬ気か。オークスとは難儀だな」
 メルヒオル・オークスとルイゼ・オークス。ラディノフ公国の貴族階級であり、策謀により公国の中央を追われシグルトに味方してからは、彼を援け建国の功労者となった兄妹。妹ルイゼはシグルトの妻、最初の帝国皇后となり、兄のメルヒオルはヴァルファムの建国を見ずシグルトを玉座に就かせて自分は死んでいった。
「自己犠牲なんて馬鹿げている。死んでいく奴は満足かもしれないが、残された者はどう思う?」
「皇子はお優しいんですね」
 彼女が妙に大人びた顔で言うものだから、無性に腹が立った。
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