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未完成の言葉の欠片 / ※印は要注意orネタバレ / 二次はクリア後前提です
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06/05/29
 大広間を満たす麗しい弦楽の音が、束の間やんだ。時刻は既に夜半を迎え、宴の享楽もやがて終わりを告げようとしている頃。軍の第一礼装である黒衣に身を包んだ青年は、ふと違和感を覚えて人の輪から視線を転じる。饗宴の主であるはずの上官は、ひとり窓辺の席で頬杖をついていた。酒精を嗜むでもなく、テーブルの上には、重なった白手袋がぞんざいに投げ出されたまま。
 遍く世界が退屈だというかのように、彼は薄氷(うすらい)にも似た色の瞳、気だるい眼差しを遠く虚空に投げ掛けている。
 もしかすると、本当に飽いているのかもしれない。そう思わせるに足る横顔だった。将来の帝冠は約束され、望めば何もかもが手に入る地位にあり、全てをそつなくこなしてしまう彼だからこその、驕奢な倦怠。
 常に完璧を演じる皇太子が、そうして人目に拘らぬ姿も珍しい。それが逆に他者を拒む空気を滲ませる。端整な面差しは常より更に冷ややかさを増し、鋭利な刃物のような雰囲気を纏う。その所為か、誰も周囲に近付けずにいるようだ。
「――殿下」

 傍らまで寄ってそう声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げる。そして皮肉に笑い、
「私を口実に使うなよ」
「ご承知でしたか」
 見透かしたようなディガルドの言葉に、ユージィンは小さな苦笑を浮かべた。特にこちらに気を配っていたわけではあるまいに、お見通しというわけか。丁度、冗長な会話にも愛想笑いにも辟易していたところだった。
 そのような内心を知ってか知らずか、空のグラスを手持ち無沙汰に玩びながら彼の主は言う。
「私のことは気にせず楽しんでくればいい。邪魔するような無粋はしない。その顔を使って、耳元で甘い言葉のひとつでも囁けば、女共は尻尾を振ってついてくるだろうさ。一夜の相手でも構わん」
「いえ、上流階級の女性は苦手です」
 一刀の下に断ち切ったユージィンの台詞に、ディガルドはさもありなん、といった表情を面に載せる。
 事実、白粉と香水の匂いにまみれ着飾った女性達は、貴族であろうと娼婦であろうと彼には同じにしか見えなかった。自らを鬻ぐ賤業の婦人には、貴族に買われたに過ぎぬ己に似た憐れみを感じる分、思量が甘いのかもしれない。彼女らも、同様に金でしか男を見ないだろう。だが、血筋や地位といった生得的な肩書きでしか相手を判断しないという点では、多くの貴顕の女の方が余計たちが悪く思われた。
 かつては平民上がりと蔑んだ自分に対して、皇太子の副官と言う立場を手に入れた途端、掌を返すように群がってくるのがいい例だ。何人もの客に真実を誓う花柳界の起請と、どちらが信じられないだろうか。大して変わりはない。
「それに、あちらの方々が口になさるのは、畏れながら殿下の話題ばかりでした。そろそろ身を固められる予定はあるのかないのか、意中の女性はどなたなのだと」
「副官のおまえに探りを入れたというわけか。くだらんな」
「女性陣は、所詮庶出の男に興味はありませんよ」
「それでも子爵家(ブルクハウト)の当主だろう?」
「旧(ふる)い体制に縋るつもりはありません。だからこそ、父も私を軍人にしたのですから。……ところで、本当に意中の方でも?」
 二十八という年齢で、妃を持たずにいる彼に関する憶測は多い。先程も厭というほど聞かされた。皇太子妃ともなれば、畢竟、選別にも慎重にならざるを得ないというのが実際のところだろうが。
 話を切り返すように不意に尋ねた彼に対して、ディガルドは軽く眉を上げただけだった。
「いや?」
 意気のない返事。指先が透明なグラスの縁をなぞる。
「陛下は『自由にしろ』と仰るが、私は別に誰であろうと構わない。次第から言えば、次の皇妃は将軍家の女だな。ガーラントかカールスバートか……ああ、ガーラントは皇后陛下の後見だったか。今度は逆に貴族からかもしれん」
 代々の皇后は、将軍家と貴族から交互に輩出されるのが、帝国内では古くから暗黙の了解となっている。どちらか一方が力を持ちすぎることのないように。婚姻も所詮は権力均衡(パワー・バランス)の道具だ。
「そうだな、おまえが妻(さい)を娶ったら、私も相手を探してもいい。同い年だろう。私だけ槍玉に挙げられるのは偏頗ではないか?」
「どういったご冗談ですか」
「つまり、私にとってはその程度の重みでしかないということだよ」

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5-6の後だとでも思ってください。『Much Ado About Nothing』関連で。ニイヤサイドだとこう。
ニイヤも姐さんも、お互いを特別好きではないんですけど、取り敢えず昔から一緒にいるし、嫌いなわけでもないので、結局は「まあこいつの相手は自分しか無理だなー」というところで落ち着いた予感。
ヴァルファムは上流階級の人だと、10代後半から20代前半で結婚(少なくとも婚約)するのが普通だったりするので(一般市民だと平均で20代後半くらい?)、ニイヤの年だとちょっと遅いわけですね。あーでもニイヤもユージィンも相手が特定じゃないだけでそれなりに遊んではいるんだろうか。なんか想像つかないけど。相手はクルティザンヌとか。でもユージィンはそういうのも嫌いそうだ。どっちにしろ、恋人、て感じの相手はいないに違いない。

もうばらしちゃったから気にせず書くぜ!というか全部繋がるよな……うっかりうっかり。
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