未完成の言葉の欠片 / ※印は要注意orネタバレ / 二次はクリア後前提です
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2026.04.04 Saturday
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アビス:PJ
2006.04.13 Thursday
こわいかおで笑うジェイドが書きたかったです。障気中和後くらい?惑星預言関連。
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「『ND2019……やがて半月を要してこれを陥落したキムラスカ軍は、玉座を最後の皇帝の血で汚し、高々と勝利の雄叫びを上げるだろう』」
低い声が、秘められし運命の一節を謡うように口遊んだ。
その台詞に、書類の束に視線を落としていた友人が顔を上げた。彼が今、口にしたのは、イオンが最後に第七譜石から詠み取った秘預言だった。ジェイドは眉を顰める。
「誰がそれを陛下のお耳に入れたんです?」
「ガイラルディアだ」
率直な返事に、目の前の男はますます眉間を険しく寄せる。
ここは帝都グランコクマに位置するマルクト軍本部の一階奥。一軍人の執務室に一国の主が出入りする姿は、世の常識的に考えれば異様ではあるが、この辺りではもう見慣れた光景となっていた。宮殿の地下からわざわざ秘密の通路まで拵えさせた、というのは単なる噂で、有事の際に宮殿から脱出するための抜け道の先のひとつに、彼に宛がわれた部屋があっただけだ。――そこに多少作為的なものは働いていたにしろ。
岬から海上に突き出す形で建造され、周囲を水道橋と第四音素による城郭に囲まれたグランコクマは、水の匂いが強い。大気の中のそれを嗅ぎ取るように、くん、と鼻を動かして、ピオニーは話を続ける。
「導師イオンの最期を聞いていてな。あからさまにわかりやすく躊躇ったんで、無理矢理聞き出した。……他のやつらからは、話を聞くどころじゃなかったしな」
ルークも少女たちも、ローレライ教団最高導師イオン――正確にはその七番目のレプリカ――の死に、目に見えるほど憔悴していた。それが『死』と呼べるものなのかもわからない。ただの消滅だったのかもしれない。けれども彼のいなくなった空白は、彼を知る者に強い衝撃を与えた。それだけは事実だ。
今も、そのわだかまりは霧消していないだろう。だから問いただすに忍びなかった。
「ガイも可哀相に。“偉大なる”皇帝陛下に問い詰められては、拒むことなどできないでしょう」
ジェイドは面に載せた険しい表情を微かに緩め、少しだけ憐れむような口振りでそう言った。他の面々と違い、ガイラルディア・ガランにはマルクト貴族という立場もある。臣下の身からすれば、逆らうことなどできるはずもない。
「冗談みたいな枕詞はよせよ」
「冗談ですから」
「しれっと言うな」
「陛下ご本人を存じ上げていたら、誰であれ間違いなくそう思い知らされます」
ふう、とこれ見よがしな溜め息をついて、ジェイドは手袋に包まれた指先で額を押さえた。
「陛下も、まったく……ご存知でない方がいいことも、あると思いますよ」
「確かにな」
彼の譴責をピオニーは笑って受け流し、言葉を繋ぐ。
「だが、第六譜石の時点で帝国の滅亡は詠まれてたんだ。今更自分の死の詳しい預言を知ったところで、驚きやしねえよ」
まるで何気ない世間話を口にするかのように、普段と同じ声音で若き君主は言った。対峙するジェイドも、顔色ひとつ変えない。
亡国の皇帝となるべくお膳立てされた人間。今考えればケテルブルクでの軟禁も、帝位継承の争いなど無関係で、ましてやそれらから息子を守るためではなく、滅びを定められた我が子に愛着を湧かせないようにするためだったのかもしれない。もはや故人となった父には糺しようもないし、既に親の愛情を欲しがるような年齢でもないが。
しかし、だからこそ、預言の下に同じ運命を担っていたルークに対し、自分は肩入れしてしまうのだろうか。
「『ユリアの預言は歪みをものともしない』――それが本当だったら」
預言はこれまでの二千年、あらかじめ定められた未来として人々を支配してきたのだ。預言の遂行こそが繁栄をもたらすのだと、強迫観念のように盲信する者共を生み出すほどに。
「キムラスカとの和平がどうであろうが、そう遠くない未来に俺は死ぬな。そしたらおまえはどうする、ジェイド」
普通なら禁忌とされるべきはずの事柄すら、彼は易々と口にする。
「私は宿命などという言葉は好きではありませんがね」
「もしもの話だろ」
「お亡くなりになる前に、陛下のレプリカでも創って差し上げますよ」
「おいおい、冗談でもやめてくれ。俺はフォミクリーの実験台に使われるのはごめんだぞ。それに、もう二度と生体レプリカは考えないって俺と約束しただろうが」
「ええ。でも陛下がいらっしゃらなければ、その約束は無効ですし」
諧謔で躱そうというのか、少し考えるようなそぶりを見せて、彼は細い眼鏡のフレームを押し上げた。二十数年来の、見慣れた仕種。その内側に赤い光が宿る。
「そうですね、もしも預言が成就したら――惑星が道を違えることをどうしても許さないのならば」
そこで一旦、ジェイドは言葉を切った。そして、その先を待つ主に向けて唇を歪めて笑う。嫣然と。
「その時は私が、預言に記された『一人の男』になりましょうか」
感情を排したような、静かな声。透明な硝子の奥、緋の双眸を目の当たりにして、ああ、と思った。幼くして悪魔の申し子と恐れられ、長じてからは『死霊使い』の二つ名を以って己の存在を国内外に轟かせる彼ならば。きっと自らを仕立て上げるだろう。
この帝国を蹂躙したキムラスカの民を根絶やしにし、オールドラントを死滅させる、その男に。
「……恐ろしい恐ろしい。おまえなら本気でやりかねん」
わざとらしい口調で答え、ピオニーは肩を竦める。
「まあ、自分の国を自分の代で滅ぼすつもりはねぇし、死なんようにせいぜい気を付けるとするか」
「どうぞそのように」
お願いしますよ、と、再び何事もなかったかのように彼は言った。
「『ND2019……やがて半月を要してこれを陥落したキムラスカ軍は、玉座を最後の皇帝の血で汚し、高々と勝利の雄叫びを上げるだろう』」
低い声が、秘められし運命の一節を謡うように口遊んだ。
その台詞に、書類の束に視線を落としていた友人が顔を上げた。彼が今、口にしたのは、イオンが最後に第七譜石から詠み取った秘預言だった。ジェイドは眉を顰める。
「誰がそれを陛下のお耳に入れたんです?」
「ガイラルディアだ」
率直な返事に、目の前の男はますます眉間を険しく寄せる。
ここは帝都グランコクマに位置するマルクト軍本部の一階奥。一軍人の執務室に一国の主が出入りする姿は、世の常識的に考えれば異様ではあるが、この辺りではもう見慣れた光景となっていた。宮殿の地下からわざわざ秘密の通路まで拵えさせた、というのは単なる噂で、有事の際に宮殿から脱出するための抜け道の先のひとつに、彼に宛がわれた部屋があっただけだ。――そこに多少作為的なものは働いていたにしろ。
岬から海上に突き出す形で建造され、周囲を水道橋と第四音素による城郭に囲まれたグランコクマは、水の匂いが強い。大気の中のそれを嗅ぎ取るように、くん、と鼻を動かして、ピオニーは話を続ける。
「導師イオンの最期を聞いていてな。あからさまにわかりやすく躊躇ったんで、無理矢理聞き出した。……他のやつらからは、話を聞くどころじゃなかったしな」
ルークも少女たちも、ローレライ教団最高導師イオン――正確にはその七番目のレプリカ――の死に、目に見えるほど憔悴していた。それが『死』と呼べるものなのかもわからない。ただの消滅だったのかもしれない。けれども彼のいなくなった空白は、彼を知る者に強い衝撃を与えた。それだけは事実だ。
今も、そのわだかまりは霧消していないだろう。だから問いただすに忍びなかった。
「ガイも可哀相に。“偉大なる”皇帝陛下に問い詰められては、拒むことなどできないでしょう」
ジェイドは面に載せた険しい表情を微かに緩め、少しだけ憐れむような口振りでそう言った。他の面々と違い、ガイラルディア・ガランにはマルクト貴族という立場もある。臣下の身からすれば、逆らうことなどできるはずもない。
「冗談みたいな枕詞はよせよ」
「冗談ですから」
「しれっと言うな」
「陛下ご本人を存じ上げていたら、誰であれ間違いなくそう思い知らされます」
ふう、とこれ見よがしな溜め息をついて、ジェイドは手袋に包まれた指先で額を押さえた。
「陛下も、まったく……ご存知でない方がいいことも、あると思いますよ」
「確かにな」
彼の譴責をピオニーは笑って受け流し、言葉を繋ぐ。
「だが、第六譜石の時点で帝国の滅亡は詠まれてたんだ。今更自分の死の詳しい預言を知ったところで、驚きやしねえよ」
まるで何気ない世間話を口にするかのように、普段と同じ声音で若き君主は言った。対峙するジェイドも、顔色ひとつ変えない。
亡国の皇帝となるべくお膳立てされた人間。今考えればケテルブルクでの軟禁も、帝位継承の争いなど無関係で、ましてやそれらから息子を守るためではなく、滅びを定められた我が子に愛着を湧かせないようにするためだったのかもしれない。もはや故人となった父には糺しようもないし、既に親の愛情を欲しがるような年齢でもないが。
しかし、だからこそ、預言の下に同じ運命を担っていたルークに対し、自分は肩入れしてしまうのだろうか。
「『ユリアの預言は歪みをものともしない』――それが本当だったら」
預言はこれまでの二千年、あらかじめ定められた未来として人々を支配してきたのだ。預言の遂行こそが繁栄をもたらすのだと、強迫観念のように盲信する者共を生み出すほどに。
「キムラスカとの和平がどうであろうが、そう遠くない未来に俺は死ぬな。そしたらおまえはどうする、ジェイド」
普通なら禁忌とされるべきはずの事柄すら、彼は易々と口にする。
「私は宿命などという言葉は好きではありませんがね」
「もしもの話だろ」
「お亡くなりになる前に、陛下のレプリカでも創って差し上げますよ」
「おいおい、冗談でもやめてくれ。俺はフォミクリーの実験台に使われるのはごめんだぞ。それに、もう二度と生体レプリカは考えないって俺と約束しただろうが」
「ええ。でも陛下がいらっしゃらなければ、その約束は無効ですし」
諧謔で躱そうというのか、少し考えるようなそぶりを見せて、彼は細い眼鏡のフレームを押し上げた。二十数年来の、見慣れた仕種。その内側に赤い光が宿る。
「そうですね、もしも預言が成就したら――惑星が道を違えることをどうしても許さないのならば」
そこで一旦、ジェイドは言葉を切った。そして、その先を待つ主に向けて唇を歪めて笑う。嫣然と。
「その時は私が、預言に記された『一人の男』になりましょうか」
感情を排したような、静かな声。透明な硝子の奥、緋の双眸を目の当たりにして、ああ、と思った。幼くして悪魔の申し子と恐れられ、長じてからは『死霊使い』の二つ名を以って己の存在を国内外に轟かせる彼ならば。きっと自らを仕立て上げるだろう。
この帝国を蹂躙したキムラスカの民を根絶やしにし、オールドラントを死滅させる、その男に。
「……恐ろしい恐ろしい。おまえなら本気でやりかねん」
わざとらしい口調で答え、ピオニーは肩を竦める。
「まあ、自分の国を自分の代で滅ぼすつもりはねぇし、死なんようにせいぜい気を付けるとするか」
「どうぞそのように」
お願いしますよ、と、再び何事もなかったかのように彼は言った。
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