未完成の言葉の欠片 / ※印は要注意orネタバレ / 二次はクリア後前提です
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2026.04.04 Saturday
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万華鏡(3)
2005.05.27 Friday
そういう生活が更に三年続いた頃、彼らの前にひとりの訪問者が現れた。
「イルマ・フローエ様のお宅はこちらで宜しいですか?」
学校帰り、アパートの部屋の前に見知らぬ男が立っていた。鍵を取り出そうとしたユージィンに気付き軽く会釈したのち、号数の表示を手元の小さな紙片と見比べるようにして彼は言う。フロックコートを身に着けた、やけに身なりのいい、落ち着いた初老の紳士だった。言葉遣いも礼儀正しく下町訛りがない。
「イルマ・フローエ様のお宅はこちらで宜しいですか?」
学校帰り、アパートの部屋の前に見知らぬ男が立っていた。鍵を取り出そうとしたユージィンに気付き軽く会釈したのち、号数の表示を手元の小さな紙片と見比べるようにして彼は言う。フロックコートを身に着けた、やけに身なりのいい、落ち着いた初老の紳士だった。言葉遣いも礼儀正しく下町訛りがない。
ずっと直轄領(アルメイア)各地を転々としていた母に、そんな知り合いがいたのだろうか。不思議に思って、ユージィンは微かに首を傾げる。
「母さんに何か用ですか」
訊き返すと男は僅かに眼を瞠り、それから慇懃に頭(こうべ)を垂れる。
「ご子息様でいらっしゃいますか。お母様は今、どちらに」
「この時間なら母は仕事に行ってます。いつも十時頃まで帰ってきませんけど……何か御用なら連絡取りましょうか?」
「いいえ、ご不在なら構いません。また後程、改めてお伺いします」
再度一礼して男は帰っていった。その後ろ姿を見送って、名前を聞き忘れたことにはたと気が付いた。もう一度来ると言っていたから、単なる押し売りの類ではなく大事な用件があるのだろうけれど。
夜遅く帰ってきたイルマにその話をする。と、彼女は一瞬躰を強張らせたが、すぐさま何もなかったように微笑んで「そう」と言った。
翌々日、またもやその男が家を訪ねてきた。今度は母のいる時間帯だった。夜分遅くに申し訳ないと丁寧に挨拶をして、イルマを呼ぶ。母と男は玄関先で話をしていたようだが、締め切った扉の所為で内容はよく聞こえなかった。ただ、時折イルマが憤ったように声を荒げていることだけは窺えた。おっとりして見えるほど穏やかな彼女が、語気を強めるなんて滅多にないことなのに。
一体誰なの、と問うのも気まずくて、その晩は何も訊かずにベッドに潜り込む。どうやら男を追い返したらしいイルマも、程なくして眠りについたようだった。
翌日の訪問はなかった。その次の日も。しかしほっとしたのも束の間のこと、一週間ほどして、またもや白髪交じりの髪の男は彼の前に姿を現した。イルマのところにではなく、ユージィンの元に、だ。中等学校(シューレ)から帰る道すがら、まるで待ち伏せするかのように出現した男に、彼も何処か薄気味悪さを禁じえない。
もしかしたら、リーズでの継父(ちち)が今更母と縒(よ)りを戻そうと差し向けたのかもしれない。そう思い当たって、ユージィンは身構える。
「母さんに何か用ですか」
訊き返すと男は僅かに眼を瞠り、それから慇懃に頭(こうべ)を垂れる。
「ご子息様でいらっしゃいますか。お母様は今、どちらに」
「この時間なら母は仕事に行ってます。いつも十時頃まで帰ってきませんけど……何か御用なら連絡取りましょうか?」
「いいえ、ご不在なら構いません。また後程、改めてお伺いします」
再度一礼して男は帰っていった。その後ろ姿を見送って、名前を聞き忘れたことにはたと気が付いた。もう一度来ると言っていたから、単なる押し売りの類ではなく大事な用件があるのだろうけれど。
夜遅く帰ってきたイルマにその話をする。と、彼女は一瞬躰を強張らせたが、すぐさま何もなかったように微笑んで「そう」と言った。
翌々日、またもやその男が家を訪ねてきた。今度は母のいる時間帯だった。夜分遅くに申し訳ないと丁寧に挨拶をして、イルマを呼ぶ。母と男は玄関先で話をしていたようだが、締め切った扉の所為で内容はよく聞こえなかった。ただ、時折イルマが憤ったように声を荒げていることだけは窺えた。おっとりして見えるほど穏やかな彼女が、語気を強めるなんて滅多にないことなのに。
一体誰なの、と問うのも気まずくて、その晩は何も訊かずにベッドに潜り込む。どうやら男を追い返したらしいイルマも、程なくして眠りについたようだった。
翌日の訪問はなかった。その次の日も。しかしほっとしたのも束の間のこと、一週間ほどして、またもや白髪交じりの髪の男は彼の前に姿を現した。イルマのところにではなく、ユージィンの元に、だ。中等学校(シューレ)から帰る道すがら、まるで待ち伏せするかのように出現した男に、彼も何処か薄気味悪さを禁じえない。
もしかしたら、リーズでの継父(ちち)が今更母と縒(よ)りを戻そうと差し向けたのかもしれない。そう思い当たって、ユージィンは身構える。
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